アメリカビールの歴史
アメリカはヨーロッパ移民が形作った国家ですから、やはり当初はヨーロッパのビールのスタイルをそのまま楽しんでいました。
その後ゴールドラッシュや禁酒法といった歴史上のトピックと共に新しいビールが出てきては衰退していったりを繰り返し、大量生産、大量消費の時代に入るとバドワイザーやクアーズといった大企業によるライトなビールが市場を席捲します。
そのこともありアメリカのビールと言うと軽快な飲み口や薄い味わいを想起しますが、実は60年代以降には社会の過度な工業化等に異を唱える考え方も現れ始め、今現在は数多のクラフトビールメーカーが懐古趣味から個性的なものまで幅広いスタイルを発信、世界でも一番クラフトビールが活況を呈している国となっています。
バドワイザー、クアーズの誕生
バドワイザーは現在世界でも一番販売量の多いビールとして有名で、誕生は1876年となります。
創業者がチェコのビール産地「ブトヴァイス」にあやかって名付けていますが、そのせいで現在にいたるまで商標登録などで各国で係争中です。
クアーズも19世紀後半に誕生したビールメーカーで、こちらもバドワイザー同様に軽快な味わいを得意としています。
両社とも20世紀以降爆発的にアメリカ全土、そして海外に製品を普及させていくことになり、しかしそれは人々の嗜好の変化以上に大量生産、冷蔵技術、そして製缶や道路整備を含めた物流インフラの発展が大きく関係しています。
もちろんマーケティングやイメージ戦略も大きく寄与、つまりは社会の仕組みの変貌やメディアの力などをすべてうまく取り込んで巨大な産業に成長したと言えるのです。
クラフトビールメーカーの巨大化、そして買収
そもそもクラフトビールは規模の小さなマイクロブルワリーが生み出していったものですが、年々市場が巨大化していくなか大企業と言える規模にまで成長したブルワリーも多数存在しており、アメリカらしく買収劇が繰り広げられています。
業界規模が年々拡大している中での買収ですし、またマイクロブルワリーの数もうなぎのぼりに増えているので、ある種健全な経済活動と言えます。
そして日本の大手ビール会社もアメリカのブルワリー買収を行っていますが、これに関しては日本国内のアルコール飲料業界のシリアスさ、つまり若者のアルコール離れや確実にやってくる人口減を見据えて海外に販路を見出そうとしている点が見え、同じ買収でも状況が違うのです。
大企業の持つ流通網に美味しいクラフトビールが流れること自体は喜ばしいことですが…。
アメリカ発祥のビールスタイル
インディア・ペールエールをアメリカナイズさせたスタイル、「アメリカン・インディア・ペールエール」は世界中のビールファンがアメリカのスタイルと認識していますし、現在進行形で意欲的なマイクロブルワリーが分類の難しい新製品を次々発表しています。
また初のアメリカ発祥ビールはゴールドラッシュ時に西海岸で誕生したスチームビール(カリフォルニアコモンビール)ですが、現在もアンカー社はこのビールを製造しています。
ちなみにそれは一度廃れてからの復活となっており、アメリカのクラフトビールはこのアンカー社の復活から歴史を始めることになるのです。
アメリカビールの特徴
ひと昔前なら大味な食べ物をスッキリ流し込める薄味ビールがアメリカビールの特徴といって問題はありませんでした。
しかし現在はクラフトビールによってその印象はすっかり変化、チャレンジスピリッツやクラフトマンシップも含め世界中の人がその質の高さを認めています。
磨き込まれて新スタイルとなったホッピーなIPAはアメリカ発の新しいスタンダードですし、またハイブリッドでモダンなベルジャンスタイルビールも実はアメリカのブルワリーが手掛けているのです。
そういう背景があるだけに中にはニッチな方面に進もうとするひねくれたブルワリーも登場、ドーナツ味のビールが登場するのは世界広しといえどもアメリカ以外には考えられません。
ドクターペッパーや各州のルートビアなど、アメリカ人以外には理解不能な飲料を次々発明する国でもありますし…。
アメリカビールの美味しい飲み方
アメリカからは数多くのビールスタイルが登場しているのですべてまとめてレクチャーするわけにはいきませんが、まあバドワイザーなどのライトなビールであれば冷やしてガンガン流し込む、これでいいでしょう。
軽快な飲み口が特徴である分、汗を流した後などでは一番美味しく飲めると思います。
またクラフトビール的にスタンダードなIPAはジャンクフードやガッツリ系の肉料理などアメリカ人が好む料理に合わせて飲みたいです。カレーと相性が良いという意見はとても多いので参考にしてみてはいかがでしょうか。
アメリカビールおすすめ10選
非常に多彩なビールのラインナップを誇る国ですのでなかなか数を絞るのは難しいです。
ですがこれを押さえておけばとりあえず大丈夫、といった銘柄をセレクトしてみました。
アンカースチーム
ゴールドラッシュ時に誕生した最初のアメリカビール。通常は低温で発酵させる酵母を高温で発酵させたことにより
華やかな味わいを実現しています。製造はアンカーブルーイングカンパニー。
サミエルアダムス
かつてビール醸造を営んでいた家系の創業者が1984年に創業した会社ボストンビアカンパニーによるアンバーラガー。
モルト感がしっかり味わえる銘柄です。
センテニアルIPA
大企業に成長したファウンダーズの原点IPA。各種団体やブルワリーのリファレンスに選ばれるほどで、アメリカンIPAの原点と言っても良いでしょう。
シエラネバダ・ペールエール
こちらもアメリカン・ペールエールの原点ともいうべき逸品。シエラネバダ醸造所の創業者は一代で巨万の富を得ましたが、現在も醸造所が主催する「シエラネバダ・ビアキャンプ」にて一般の参加者といっしょにビールを楽しんでいます。
ブルームーン
ベルジャンホワイトをアメリカ風にさらにライトに仕上げたモルソンクアーズ社の製品。そのまま飲むのはもちろん、柑橘フルーツと合わせて飲みたいです。最近はどこでも買えるようになっています。
カルデラブリューイング カルデラIPA
世界中のビール大会で高評価され、多くの銘柄でホップの苦み、華やかさを強く感じさせてくれる醸造所によるIPA。
口に含むとガツンとくる力強い苦みがやはりまずは特徴となっていますが、
それだけではなく複数種類のホップのハーモニーによって豊かな柑橘香も楽しめるのです。
日本でも近年高品質なIPAは多数出回ってきているとはいえ、ホップの存在感をここまで強めた製品はなかなかお目にかかれません。
ピッツァポートブルーイング スワミズIPA
創業当初はジャンクフードを中心とした飲食店だったピッツァポート。
醸造設備を導入してブルーパブ経営に乗り出すと口コミでその美味しさが伝わっていき、今では観光スポットにまで成長しています。
そのピッツァポートの名が多くの方に知られるきっかけとなったのがこちらのIPAで、
ホップの存在感は強烈ながらドリンカブル、ゴクゴク飲めてしまえる製品なのです。
マウイブルーイング ココナッツポーター
ハワイのマウイ島にあるブルワリーが生み出したローカル色の強い作品です。
ココナッツをロースト、そしてもちろん当然ながらローストした麦芽から生まれる褐色ビール、
ポーターをベースにそれらをジョイントさせてしまった味わいは何とも言えないギリギリのバランス感がだいご味です。
香りから味わい、最後の残り香までココナッツが強く、賛否両論ではありますが開放的でサマーセクシーな気分になれますね。
ブルックリンブルワリー ブルックリンラガー
ビジネスマンとして働いていた創業者が趣味で始めたホームブルーイングの評判があまりにも高く、そのまま事業に発展、
大成功した今では日本の大手ビール会社と提携したおかげでコンビニエンスストアでも見かけるようになった銘柄です。
ひと昔前のアメリカンラガーとは段違いのコク、深み、そして麦芽の甘い味わいを感じることができます。
エールスミスブルーイング エールスミス グランクリュ
クラフトビールの活況感に関しては世界最強と言っても過言ではないアメリカ。
ですので本当に様々なスタイルのビールを楽しむことができるのですが、
こちらのエールスミスでは大衆の飲み物であるビールに洗練された高級感を付け加えることに成功しており、
本銘柄はジャンクフードではなくシャンパンやワインのようにディナーと合わせたい雰囲気を兼ね備えています。
実売価格も数千円となっているので特別な日に用意したい逸品ですね。